「萬夜一夜先代萩」によせて 対談:朝丘雪路×林 与一

「萬夜一夜先代萩」によせて

朝丘雪路
林 与一
(きき手・村尚也)

今回は村尚也(坂東鼓登治)が兼元多恵子さんと演出する
《歌舞伎ルネサンス》「萬夜一夜先代萩」
にご出演の朝丘雪路さん、林与一さんにお話しをうかがいました。




朝丘さんは歌舞伎はずいぶんお若い頃に何か…。

朝丘
世話物で「お静礼三」を紀ノ字屋のおじさんと…。


守田勘弥さんですか。

朝丘
はい。あと市川雷蔵さんと「番町皿屋敷」のお菊を。
歌舞伎ではなく私と二人の公演だったんですけど雷蔵さんのお父君の寿海さんが演出して下さって。


そういう事はよくおありになったんですか?

朝丘
当時ちょっとブームみたいになっていたんです。
林さんと一緒にやったのもずいぶんありますね。


それ以外にも「源氏店」の与三郎とか見せて頂いて。
雷蔵さんがおやりになったというので、そのあと僕、やらして頂いて。


歌舞伎の通りになさるんですか?


雷蔵さんは歌舞伎に大変興味を持ってらっしゃったんで、歌舞伎の題材の本で自分の考えを入れてというのが好きだったですね。
寿海さんも歌舞伎じゃ壊せないから普通の時はこうしようかという演出をなさった。
僕と朝丘さんが「婦系図」を柳永二郎先生に演出して頂いた時も、俺はこうやりたかったけれども新派じゃ出来ないから、お前達の時はこういう風にしようという演出をして下さった。
「白糸」もやらして頂いたし、いろいろさせて頂いた。


例えば、どんな事ですか?


「湯島」(婦系図)の侘び住まいの幕開きに賛美歌が鳴っているの。(女学生の)妙子が訪ねて来るんだから日曜だろうと。
裏の教会から賛美歌が聞こえれば日曜だとわかる。
「滝の白糸」の時に、国へ帰って木の傍へ来て懐かしいなと言う時に 夕空晴れて…と流して、花道からダーッと来て木に触っただけで分かるわけ。
そういう事がありましたね。

朝丘
「湯島」でもイヤ、イヤ、イヤって言う時に新派は振りが付いている。
あんな事お前言うか?お前ならどう?って言われて、いやッいやッってぶとうと思うけど、ぶてずに泣くって言ったら、それでいいって。


面白いですね。そういう事をなさってた…。


朝丘さんと、ずいぶん色々やらせて頂いた。

朝丘
あと、松緑(先代)さんが歌舞伎になる新しいものないか?って、円地文子先生の作品を持ってらして、私達となさったり。


僕は新派に出して頂いて、初代の水谷八重子さんと…。
その時に、あなた勝手に動いてみてっておっしゃる。新派って型がないんだから、旦那様の役のあなたが主役なんだから、動いてくれた所へ行くからやってみてって。
動いたら、あ、やっぱりここへ来るのね、だから型なのねって。


ああ、なるほど…。そういったものをなさっていらして、今回歌舞伎を土台とした作品をされるというのはいかがですか?


黒衣で一ヶ月間ソデから舞台を観て、帰るとお前あの役やってごらんと試験されてという事がありましたから。
子供の頃から色々なものを観せて頂いて、関西風であろうが関東風であろうが好いものをいただいて、演出家の先生と相談してやるというのが今回のやり方ではないのかなと。
役者はやっている事が見えないから…。


今回、与一さんは八汐の役でもいろんな事をお持ち込みになられましたねー。


いいか悪いかわからないけれど色んな物を持ち出して、枝葉を刈り込んでもらうのが演出家の方だから、とにかく知っている事を持ち出しているんですけれどもね。

朝丘
私は先代萩をやるなんて全然思っていなかった。
木挽町界隈に住んでいますから、父親が正月春芝居から「何やってんだい?」と聞かないで「誰が出てる?」と聞いて行くの。
新派でも花柳の先生(章太郎)がパパの親友なんで可愛がって頂いたんですけれど、今日は花柳の他に誰出るの?って。


元々朝丘さんと僕が芝居が出来るようになったのは、花柳先生が別々に知ってらして「伊東深水さんの娘が宝塚にいて芝居が出来るから、本当はお前と新派やってくれりゃあ面白いんだけどな」って話を聞いていたの。

朝丘
それで私の所に来て「大阪に林又一郎のお孫さんでいいのがいるから一緒に新派やってごらん」って言われたの。


存命中は一回も出られなかった。お亡くなりになって色んな企画が出た時に新派のものをやらしてもらおうかなって相談したら、朝丘さんも花柳のおじさんからこんな事聞いていたのよと。
「残菊」とか、

朝丘
全部やりましたよ。「明治一代女」も…。


お芝居の中の許嫁みたいなものですねー。もう何十年ですか?


三、四十年くらい。

朝丘
で、ここで虐められると思わなかった。(笑)政岡の役ですけれど…。


花柳先生の存命中に一回でもこういう事をやったらどんなに喜んでもらえたか。
もう一度生まれ変わる事が出来たら、歌舞伎・新派の土台のものを新しく直したものをやれる役者に出直したらいいなと。
年齢と共に出来なくなっていく役があるじゃないですか。
そういうものをやりたい。長谷川のおじさん(長谷川一夫)も言っていたように年齢に合ったものをやるというね。

朝丘
ずっと長谷川先生の相手役をさせて頂いていましたけれど、源氏で、昨日来なかったのは誰の所に行っていたのかイヤッというお芝居で先生が「振り向いてもくれない…」と急に歌い出したのでびっくり!
お客様は喜んで下さってね。


そういえば、歌舞伎の「河庄」(心中天網島)の治兵衛の花道の出もいろいろあったと伺いましたが…。


先代の中村雁治郎さんは前へ行く時に草履が脱げた。 が、うちのお祖父ちゃん(林又一郎)は後ろへトトトトッと退って草履が前に脱げる。
それがリアルだって言ってましたネ。
そして、どうやって探すかというのを、それぞれの方がその人なりの考えでやって型が出来ていくというのを子供のうちから聞いていましたので、自分で生理にあったものを形にしていくのがいいんだろうなと思っています。

朝丘
花柳先生が歌舞伎の役者さんが普通の芝居をやりたいというから一緒にというので楽しみにしていたんですけれど、女形で有名だった四世時蔵さんが男の役で、お稽古まで済んで次の日亡くなった…。


僕は亡くなる二日か三日前に「石切梶原」の梢をやってらしたのを観ていてエッあの人がって思ったもの。
後から思うと、透き通った白さだった。でも、(朝丘さんと)本当に久しぶりに会って楽しい。

朝丘
私も安心して助けていただける。


政岡ですから八汐に虐められがいがありますね。
また今回は第一幕の「鶴千代御殿の場」に加えて、騒動から三十年が経った「伊達館奥殿の場」があるのも楽しみなところです。
神奈川から始まって東京は亀有・浅草・池袋、その後各地に廻りますので皆様お楽しみにー。
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