未知の奥から歌がうまれて~その二~

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対談バナー14新
その二
そして歌がうまれて


村  それでも歌をつくる時には短い言葉から何かがほとびていくような
   詩になっているでしょう。言葉を紡ぎ出していく?

因幡 あきないですよね。いろんな状況下で同じような表現だって言葉の
   使い方ってありますからね。どれをもってきて、どう掘り下げていって
   引っぱってきたら次のイモがどうついてきてるかっていうね、言葉の
   面白さってありますね。

村  因幡さんの場合は歌詞の方が先にできるんですか?それとも曲が
   先ですか?同時とか?

因幡 いつも試行錯誤してますけど、どちらかというとメロの方が生まれ
   やすくて、ただメロ作るときもいくつかの僕の大切な言葉たちがある。
   その中でどの言葉を注視するかっていうのがすくい上げる時の作業で
   メロディーの中にいくつかの言葉が僕の中で埋まっているんだろうし、
   言葉の中にいくつかのメロディーはすでにあって、それをどういう
   ふうにチョイスするか、それが曲を作るっていうことじゃないかな
   と思うんですけどね。

村  そうですか。
   「わかって下さい」とか「別涙(わかれ)」とかは、メロディーって
   いいますか独特なんだけど、ポピュラーな感じとちょっと違う暗い淵
   からこう湧き出てくるようなメロディーでしょ。それが思いもよらな
   い所にいくんですよね。それが非常に魅力だなと思っているんですけど。
   もともと歌を作られたきっかけはどういった事だったんですか?

因幡 それはね、プロになってそれを生業としようなんてことじゃなくて、
   その時すでに僕は秋田で鉱山技師という仕事をしていて(工業高校の
   地質鉱学部というところで…)、その町全体が鉱山の町なんですね。
   なぜか選鉱の実験室に配属されまして、そこでフラスコ振ったり(笑)。
   仕事が単調でふと鼻唄でメロディーを奏でながらやっちゃったんですね。
   それが人の歌ではなくて、オリジナルだったんですね。ラララ…、いい
   メロディーだな。それを何度も何度も反復して、わかって下さいって
   いう言葉が生まれて。なんでわかって下さいなのかなっていうんで前後
   がついて曲が出来たという。家に帰って高校時代親父にギター買って
   もらったのを引っぱり出してきてコードつけて、ヤマハのポプコンに
   応募したんです。

村  ほう!

因幡 つまり、コンテストだから曲を作って応募したんじゃなくて、何か出来
   ちゃって、どう評価されるのかなぐらいの…。それでトントン拍子に県
   大会、東北大会、全国大会と勝ち進んでいって最優秀曲賞というグラン
   プリに次いでの賞をいただいて、記念にシングルレコードが出来て、
   じゃあプロになってみないかといわれたんだけど、僕は鉱山好きで鉱山
   入ったし、それで親父にどうしようかねって言ったら「おまえの人生な
   んだから」って。親父がそう言うと思わなかったんですけど言ってくれ
   て、じゃあ悪いけどちょっとやってみるよって。でもダメだったら山に
   帰りゃいいさって、それで一年位は二足の草鞋だったんですよ。レコー
   ドを出しつつ鉱山の仕事をしてー。そういう中ですからプロになるつも
   りはなくて。「わかってください」が生まれて僕にとっては全くの趣味
   の域だったんです。それはそれでよかったんですよ。だけどそうだから
   力が抜けて出来たんだとも思いますしね。ふっとわいてきたって時は神
   がかり的なね。落ちてきたような感じしましたね。

村  うんうん、そうですね。じゃあ高校時代のフォークソングなんかとは全
   く違う曲調だったんでしょ。誰とも系統が似ていない歌だなって思うん
   ですよね。だからどこから出てきたのかなってとても気になる。

因幡 うちの親父が今九十一で健在なんですが、民謡がうまくて声が良くて、
   村の祭りなんかで歌って賞をもらってきたりとか、親父がよく仲間たち
   と車座になって酒を酌み交わしても出てくるのは民謡だったり、それを
   ずっと小さい頃から聞いていたり、気がのれば親父が自由に民謡を歌っ
   ているんですよ、当然ですがアカペラでね。そういうものが僕にとって
   も自由に鼻唄であったりメロディーを勝手に自由に好きなように発声し
   てみるというのは親父のそれを見ていたからじゃないですかね。

村  なるほどねえ。うちの公演に来ていただいた時にプライベートに「秋田
   長持唄」を歌って下さったじゃないですか。ああいう風に、パッと歌え
   る民謡ってあるんですか?

因幡 他は知りません(笑)。あれには特別な思い出があって大事にしているって
   いうか…。それより民謡歌手じゃなしね(笑)。歌を覚えようとはしません
   けれど。皆でワーイって歌うのはあまり好きじゃないですし、しみじみと
   する民謡の方が好きですね。

村  めでたい歌なのに親の愛情の哀しい部分っていうかね、せつない部分って
   ありますよね。

因幡 あれは掛け合いで何番もある歌で、すごい歌詞があるらしいんですよ。
   大事な娘を盗んでいく、殺してやりたいくらいだって、その位の思いがこ
   もった言葉がある歌詞もあるそうです。

村  えっ、そんな!はあ…そうですか。

因幡 各県で少しずつ言葉が違う、メロディーが違う「長持唄」があるらしい
   ですけどね。

村  なるほどね、伝承の過程でいろいろなものがあるんですね。その辺りが
   民謡の面白いところですよね。先程申し上げたように、因幡さんの歌は
   女性の気持ちを男性が歌っておられる。私たちでいうと女形なんですね。
   なんというかアンドロギュヌスというか両性具有といいますか、その辺
   りが非常に日本舞踊の発想に近いって思うんですね。共通項がある、だ
   から因幡さんの歌を聞いた瞬間に「あ、踊りになる!」って。僕はそう
   反応しがちなんですね。鎌倉のライブに伺わせていただいた時にも一曲
   目から次々とイメージが湧いてきちゃう。しかも歌詞の内容も曲も歌い
   方っていうのもあるのね。それがすべて私たちの舞踊的な部分にひっか
   かってきちゃうんですよね。それってもちろん意識はしていらっしゃら
   ないですよね。

因幡 意識はしてませんけど、表現する形態で、役者さんて僕なんか絶対でき
   ないけど泣いてみせるんですよ。何らかの表現方法を、今やってみたら
   やれる。僕はもしかしたら歌えばそれが出来るんじゃないかと。それも
   ひとつの手法であり、それはすごく恥ずかしくて照れるんだけど、音楽
   であればなんの照れもなくそれを表現できる。それが歌う形であったり
   とかするような気がしますね。

村  よく昔の人が言っていた、歌は三分間のドラマだとかって時代があった
   でしょ。因幡さんの歌は五分位だとしても一曲一曲を歌い切りますよね。
   途中の高音の部分ね。僕は最近の男性の歌手の歌を聞いているとファル
   セットっていうんですかね。裏声が女性的に聞こえるんですよ。どうも
   正直言って好きになれない軟弱だなって気がするんだけど、因幡さんは
   高音の時に死ぬか!と思うようにね(笑)。もう限りないところまで勝負
   なさるじゃないですか。挙句の果てにですね、終わるとですね、僕たち
   の仕草でいうとですね、こうなるのね(体を斜めに傾け)。髪の毛が、
   こう垂直に垂れましてね。絶命したかのようにですね、一曲ずつね(笑)。
   失礼な言い方だけど。

因幡 いえいえ(笑)。

村  ものすごく面白くね。我々で言うとナンバンて言うんですけどね。
   同時に同じ側の上半身と下半身が出る。あれはものすごくインパクトが
   強いんですよ。

因幡 ふーん!

村  もちろん無意識でなさっているんだろうけど、これは非常に我々と通じ
   てるんですね。

因幡 意識してないですね。

村  意識したら今度出来なくなっちゃう(笑)。あれは魅力なんですけどね。
   髪の毛が偶然たれるでしょタテにこうなるでしょ、傾ぐでしょ最後に。
   あれは共通項ですよ。
   
因幡 はあ!なるほど。

村  なんか絶命するって感じ。一曲一曲あそこまで歌いきるって大変お辛く
   ないですか?(笑)。

因幡 イントロ始まって…気合ですね。
   終わってくたくたになって、じゃあ次の歌って。

村  一曲で終わればいいけど一時間半とか二時間とかですからね。
   持つのかなって最初の時に心配したくらい。そういうわけで失礼だけど
   プロになろうっていうわけではなかったっておっしゃったけど、プロと
   しての訓練とかはなさらなかったということですか?ご自身で歌いなが
   ら歌い方とかを発見して訓練していったんですか?

因幡 そうですね。何がプロの形かってわからないですけど自然にやってきて
   いて、若い頃は毎日のスケジュールこなして今日はどこってわからない
   くらい忙しかったですが、やはり今は一個一個がすごく愛おしくて一日
   一日のコンサートをしっかりやっていこうっていう気になってきましたね。

村  その一つ一つを大切にしておられるところが因幡晃の魅力だとファンの
   皆さんがそう思うんだと思うんだけど、僕もそう思っています。

因幡 そういう風にやらないと、次のものが自信持って作れなくなっちゃうよ
   うな気がしますね。ライブの時練っていって次にアルバムが出来るよう
   な活動、思いを込めた作品作りを今やっているんで、それを手を抜いて
   いくと、新しいものが「何だ全然変わらないじゃない前よりクオリティ
   さがったね」とは絶対言わせたくないし。

村  それはそうですよね。

因幡 だから今までのをしっかりやって、それ以上のことを新曲の中に入れた
   いなってやっていますね。


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